2002年5月7日〜9日 奧穂高岳


連休が終わって世間が始動を開始した7日、やってきました上高地。
新幹線、特急、電車、バスを乗り継いでたどりついた上高地は雨に煙っている。今日中に徳沢まで
入るつもりだったがすでに3時半を回っているし、のっけから雨の中を歩くのはまっぴらだ。
というわけで小梨平野営場にテントを張る。
居合わせた3人で炊事場に張る。いくら降っても大丈夫だ。北穂から降りてきた男性の話によると
昨日は北穂小屋は1人だけ。今日は雨の中10人ばかり涸沢に登ったそうだ。


小梨平野営場

明けて8日、雨は降り続いているが涸沢をめざす。夏は喧騒を極める明神、徳沢、横尾と続く
梓川左岸歩道は全く静かだ。横尾に近づくにつれ雨が小降りになる。明日の好天に期待する。
横尾大橋を渡ると山道になる。所々残雪はあるが本谷橋までは夏道だ。


本谷橋

本谷橋は完全に雪の下だ、ここからは本格的に雪山となる。横尾本谷と涸沢の出合付近はなだれの
デブリがものすごい。そこにルートを示す弁柄が点々と撒かれている。


出合

斜度もゆるく、雨で雪面が堅くなっているので歩きやすいが両側から時々、落石があるので休むことができない。
へとへとになりながらそれでも横尾から3時間で涸沢に着いた。


涸沢

常念山脈は見えているが穂高は雲の下だ。今日は風もなく静かだが、昨日から停滞している人の話では
昨夜は強風でテントが飛ばされないか、心配でおちおち眠れなかったそうだ。本日は10張り設営された。
寒くてよく眠れず。


モルゲンロート

待望の奥穂登頂の朝は無風快晴だ。準備ももどかしく、5時前にテントを飛び出す。よく締まった雪面を踏んで、
あずき沢を真っ直ぐ登る。雨でトレースはほとんど消えているが、ダイレクトルートから落石があるので、
ザイテングラードよりに白出のコルをめざして登る。


ザイテングラード末端


前穂


涸沢が小さく見える。やっとほかの連中も出て来た。


穂高岳山荘

白出のコルに2時間で到着。とりあえず一休み。涸沢岳方面は雪がない。今年は稜線の雪は少ないようだ。
しかしここからが最大の難所だ。ハシゴの付近は雪が付いていないがその上に雪壁が見える。
末端には転落防止のワイヤーがあるが、転落した際に、体が白出沢に落ちないというだけで無事ではすまない。


奥穂へのルート

慎重にハシゴを通過する。問題の雪壁だ、表面は氷化している。ピッケルのピックを打ち込み、アイゼンの
前爪を蹴り込み、上だけ見て必死に登る。登りきった先は雪がなく夏道が出ている。
頂上直下にわずかに雪が残っているだけで1時間で頂上に到着した。


奥穂高岳頂上 祠は穂高神社嶺宮
本宮は大糸線穂高駅前、奥宮は上高地明神池畔

一番乗りかと思っていたら先客がいた。奥穂の小屋に泊まっていた男性だ。昨夜は1人だけだったそうだ。
続いてもう1人到着した。30分山頂にいたが後続は無し。


ジャンダルム 馬の背、ロバの耳にトレースが続く
さすがに踏み込む勇気は無い。


涸沢岳、槍ヶ岳、北穂




上高地

下りの雪壁は下が見えるだけに足がすくむが、なんとかコルに降りついた。心底ほっとした。あとは降りるだけ。
今回の山行も大成功だと思ったのが落とし穴だった。とりあえずコルに到着した後続の登山者に、あれこれ
アドバイスしたりしてゆったりと過ごした後、涸沢に下山を開始した。


コルから見た常念

すでに日が高く、雪がゆるんでいる。気も緩んでいる。歩き出してほどなくスリップしてしりもちをつく。
このままシリセードで下れば楽だと思ったのが運のつき、あっというまにスピードが上がる。
止まろうと思ってもどうにもならない。ピッケルも離してしまった。しまったーえらいこっちゃー
ザイテングラードの岩場がどんどん近づく。なんとかしなくちゃ。

人は最期のとき、一生を走馬灯のように振り返るそうだがあせるばかりでそんな暇は無い。
ピッケルのバンドを手繰り寄せてピッケルをつかむ、渾身の力を振り絞って雪面にピックを打ち込む。
ザザザーーーやっと止まった。へなへなと座り込む。ザテイングラードの末端近くまで落ちていた。

パンツの中まで雪まみれ、周りに誰もいなかったので雪をかきだす。左の肩が痛い。
動くので打撲だけですんだようだ。気を取り直してゆっくりとテントに戻る。

冷静に考えれば滑落停止だけで止まったわけではない、傾斜がゆるくなっていたので助かったのだ。
運が良かったというべきだろう。山は最後まで気を緩めてはいけない。肝に銘じたい。


涸沢小屋


荷揚げのヘリ

昼過ぎ、テントを撤収して上高地にむけて下山する。
帰り道は遠い。夕方5時過ぎ小梨平野営場に到着。温泉ではないが風呂が6時まで入れる。
今日は落葉松にかこまれた中でテントを張る、焚き火もできてビールも安い。
色々あったが終わりよければ全てよし。


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